【稽古日誌】ほめ殺しの効用

振動の話をしておこうと思います。
これも、この前の甲野先生との手合わせで感じさせてもらったことです。少しでも、書き残しておかないと、どんどん、変化していっちゃいますからね。
 
先生との手合わせで手首だけじゃなくってね、体全体が細かく揺れる事ができる事がわかり、これまで以上に居つかない体でいる事ができるようになってきました。映ったんです、身体の感覚が。
 
そして、これは特別な事ではなく、当たり前の生活の中で普通に現れている事だと分かってきました。皆、毎日、いつもいつも、そういう振動を身体はしてるんですよ。気づいていないだけで。
 
つまりどういう事かと言うと、いい音楽に出会った時、いい笑顔に出会った時、おいしいもの食べた時、そんなうれしい事があった時、私たちの体はほっと緩み、細かく体が振動しているんです。信じられる?
 
そして、この私の体が振動していると言う事は、同時に自分の周りの環境も細かく揺れていると言うことなんです。今日はそんな話です。
 
 
 
甲野先生と手を合わせた時、その動きに負けないように必死で自分の体を素早く震わせようと頑張ってついて行きました。しかし、そんな頑張りから生まれた振動では当然のように先生からの動きは止められません。
 
それでも、その状況を何とかしようという必要性が自分の体の可能性を広げてくれるんです。甲野先生との稽古はいつもこんな感じ。
 
ふとその時、先生が自分よりも速い動きをするのであれば、自分が何かをしようと頑張るよりも、先生の動きに任せてみる事が一番いいんじゃないかと思いついたんです。
 
イメージはこんな感じ。
流れの速い水の中で、もがきながら自分の泳ぎをするよりも、その流れに身を任せてただひたすら、力を抜いて行く感じです。
 
また、暴風雨の中を頑張りながら進みゆくのではなく、風に背中を押されながら自分の体が運ばれる事自体を楽しむそんな感じってのもいいかもしれません。
 
 
 
自分自身と外にある環境はその境目が見えにくいものです。こうして言葉にしていてもなんか、変な感じがしますもん(笑)。
穴ってのは穴だけでは存在できませんよね。穴があれば、必ず、穴の周りってのも存在します。穴というのが自分だとすると、穴の周りと言うのが環境です。
 
実際に自分がここにいて周りの環境があるわけですから必ず境目はあるんだけど、なかなかそれを認める事ってできません。頭では分かっているはずなんですけどね。
 
 
 
外にあるものを自分よりもはるかに勢いのあるものだと認め、それに合わせてみる。すると、この自分の体はそれまで以上に小刻みに動いている事が感じられました。自分自身の中で流れを作ろうと動きを作ろうと頑張っていた時には作れなかった動きが、外にある力に助けてもらう事によって引き出されてきたのです。
 
穴で言えば、穴の周りが急速にその形を変えていけば、当然、タイムラグ無しに穴の形も変わりますよね。
どっちから変化をしても、穴と穴のまわりはつながっているんです。
 
 
 
今の時代はアクシデントを嫌う時代ですよね。特にこの日本は。いや、人間は退屈が嫌いですから本能的にアクシデントを求めているかもしれないけど、アクシデントは安全がセットでないと、要らない、って人が増えているんです(笑)
 
ついつい目の前にあるものは自分の考えた通りに存在し続けると考えてしまいがちだけど、そうした動きの少ない塊感のある世界で暮らしている事で、自分の体の可能性もギュッと縮こまってしまうんじゃないかと思いました。
 
本当は私達のカラダってもっとよく動くんです。でもその動きを経験する機会が少なくなっちゃいました。平和なまま暮らしている事は幸せな事ではありますが、いつか来るかもしれない不安に恐れながら、今の平和を生きる事は本当の幸せにはなり得ません。
 
どんなに自分の周りが慌ただしく流れが速くなろうとも、その流れに自分自身がちゃんとついて行ける、そんな動ける体を持っている、その思いを持つ事ができればきっと今よりも毎日の生活が楽しく、そして喜びに満ち溢れてきます。
 
 
 
実際に武術の技で試してみても、自分中心で動いて行くよりも、目の前の相手を自分よりもはるかに腕の立つ達人なんだ!、と思って動いてみた方が、結果としてはうまくいくんです。
きっと目の前の相手も自分の事を達人として認められる事がギャップとして感じられるんだと思います。人間って褒められると困りますよね。特に私はほめられるのが苦手です(笑)
単純に嫌われば、それに対して対抗することもできますが、心の底から凄いと思われてしまったとき、その思いを受け止める事ってなかなかできません。
褒め殺してやつです(笑)
 
 
 
目の前の相手を達人だと思い、その自分の作ったイメージによって、この身体をより細かく振動させる。そしてその細かい振動を持った体で相手に入って行く。まさか、ただ単純に真直ぐ入っている、この動きの中でそんな変な事を考えているとは、きっと誰も思わないはず(笑)
 
 
 
自分自身の体が騒がしく揺れるというのは、遠足前の子どもたちに似ています。自分自身で作った振動ですからガクガク震えてしまうというものではありません。ワクワクドキドキ、居ても立ってもいられない感じ。それを自分自身の気持ちの持ち方ひとつで作る事ができたらもっと幸せになれそうな気がします。
 
変な話ですが、大切な事だと思ったのでお話しました。
聞いてくれてありがとうございます。

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