上達のための足跡

【身体感覚の足跡】伸筋でもなく、屈筋でもない

甲野先生の術理で「電車の窓を手で開けるようにつかう」というのがあります。その言葉を聞き、技をかけていただいた時には「全く」その意味も、説明もわからないままでした。
 
ふと、それがこういうことかぁ・・・といつものごとく、自分の中で勝手に納得できてしまう気づきを得ました。(そして、この気づきはあの時はこう考えていたけど・・・とまた新しい問いに変わっていくのですが・・・)
 
「電車の窓を手で開けるようにつかう」と、いくら考えて動いてみても、実際に目の前にあるのは相手の身体や手です。それでも、この感覚に気づいた瞬間、絶妙な例えにもう、びっくりです。まさに、「電車の窓を手で開けるようにつかう」なのですから。
 
そういえば、最近電車の窓って開くのかな?子供の頃あったような窓・・・エアコン完備がほとんどですからね、この例え自体、子供達には意味不明かもしれません(笑)。ここに、経験している強みがあります。僕ら、大人はそこをしっかり活用して、どんどんバージョンアップを遂げましょう!
 
 
さて、この例えを絶妙だ、と思えるような感覚とはどんなものだったのか・・・。それは屈筋でもなく、伸筋でもない、ちょうど、その間に力感を置きつづけるという感覚です。
なにかをしようとしたとき、この手を伸ばして、その対象に触れます。そして、動くわけですが、その時には曲がる筋肉、伸びる筋肉、どちらかに偏りができてしまう事が多いのです。
 
一時期、神秘の力「合気」の解説に伸筋の活用という事が話題になりました。確かに、曲げる力に対して、予測を外すように伸びる筋肉で技を施せば、そこにギャップが生まれ、相手のスキをつき、入っていけます。
知らない相手にそれを使うのは有効なんですが、相手も、同じように習熟してくると、やっぱりぶつかるんですよね・・・。まぁ、だからこそ、次の稽古への情熱がわいてくるのですけどね。
 
無意識に、自分の中に、曲げるか、伸ばすか、その「どちらか」というものが出来ていたみたいなんです。でも、「電車の窓を手で開ける」時には、そのどちらも考えずに、「自然」に窓を開けます。この時、曲げる方にも伸ばす方にも偏らずに、ただ、上げる、という事が行われている気がします。
 
その「中間」を見つける事、気づく事が大切です。抑えられた手を曲げるのでもなく、伸ばすのでもない、その中間に置いたまま、「ココ」と決めたところを動かさないようにして、上げていきます。きっと、この時、相手もこちらに探りを入れているんでしょうね。それがどちらにも偏らない中間だからこそ、見つけにくいのだと思います。
 
なにかを「しよう」と考えたとき、つい、「どちらか」という二つの選択になります。でも、その間なんだ・・・という事をしみじみ感じた気づきでした。これがその後の3点でバランスをとる事、仕事は共同作業だ、という気づきに繋がっていったんだと思います。

【身体感覚の足跡】直線は最短距離ではない その2

なぜ、回りながら移動をすると「楽」なんだろう?と考えてみました。確かに、足先だけ、指先だけがゴールへ着くというのならば直線でも良いかもしれません。でも、足先や指先だけが「私」ではありませんからね。残された「私」があるままでは気持ちわるいです。
 
また、数メートル、ちょっと距離がある場合などは特に、脚を使って移動しなくてはいけません。この時、この脚が直線を最短だと思って踏み出してしまうと、どうしても、気持ち悪いです。
 
その気持ち悪さは「蹴り」かもしれません。
武術の動きで地面を蹴って移動するのは良くない、と聞いたことはありませんか?それです。蹴って移動する事で、前には進むものの、どうしても、そこに残り続ける「私」が生まれます。その残った私がゴールするのが遅れる事が気持ち悪さに繋がっています。
 
廻る動きにはこれはありません。ぐるりと廻る動きが全体を一つにして、移動させてくれます。結果、頭で考えた最短距離よりも長く距離を取りながらも、時間的には早く終わる、という現象が起こります。
 
なにかを「しよう」と考えたとき、地面を蹴ったり、手が胸を蹴ったりするのは当たり前すぎて、考えた事もないかもしれません。この蹴る動きがなくならなければ気配はいつまでも出続けます。一つ上のレベルを目指すには必須の感覚です。お試しあれ。

【身体感覚の足跡】直線は最短距離ではない その1

2点間をつなぐ道筋での最短距離はどれ?と考えてみると、その2点を結ぶ、直線がその答えだと考えられるかと思います。でも、実は、この考えが間違っているかもしれない、そういう話をします。
 
2点間の直線が最短距離ではない、といっても、紙に点を打てば、その間の直線が最短距離であるのは間違いありません。今、ここでお話しするのは、私達が生きている、この空間、とりわけ武術的に扱う間合いについてです。
 
拳を相手に届かせようとするとき、自分と相手との距離が間合いです。その間合いをいかに速くつめ、拳を届かせるか、単純なのに、難しい問題がそこにあります。相手に近づく時には回り道をしている余裕はありません。一刻も早く、相手の中へと入らなくてはなりません。でも、実は、真っ直ぐ、最短距離を進んでは「遅い」という事があるんです。
 
こういう遊びをしました。
1、2メートル話してイスを横に並べます。片方のイスから、もう片方のイスへと移動してみてください。さぁ、どんな方法があるでしょうか?
 
どんな方法??
イスからイスへと移動するのに、方法なんか・・・と考えるかもしれません。
でも、これが大きなヒントを与えてくれます。
 
普通に移動するとしたらこんな感じでしょうか。
立ち上がり、目標であるイスを見て、1歩1歩足を進めます。この時、欲張って、大きく飛び出そうとする方法もあるかもしれません。
まぁ、どちらにしても、二つのイスの最短距離を進もうと考え、行動する事が「普通」ではないでしょうか。
 
それに対して、こんな方法があります。
立ち上がっても、立ち上がらなくても良いのですが、目標の見て、真っ直ぐではなく、漠然とした方向だけ決めておきます。そして、移動する際には身体を「廻す」のです。その場で回転するつもりで構いません。クルクル回りながら、目標へと近づいていきます。そう、コマのようにです。
 
この時の気持ちよさ、気持ち悪さをよく感じてみてください。
真っ直ぐか、回るようにして動くか、こんな単純な事でもこんなにも大きく違うんだ、と気づく事ができるかもしれません。
 

【身体感覚の足跡】浮き、その4「バランス」

浮くための3点立ち」に書きましたが、「分離から生まれる自由感」から「浮く」という感覚を身体で感じている頃でした。この身体で確かに感じているこの浮きも、技を通してでしか伝わらないもどかしさです。そもそも「浮き」という言葉がオカルトチックなのかもしれません。私もそういう言葉を受け入れるのにずいぶん時間がかかりました。でも、オカルトではなく、バランスなんですね。
 
それでも、なんとか伝わらないだろうか?と考えたときに、ひらめいたのが3点バランスでした。足裏にバランスが生まれたときに感じた軽さは空飛ぶじゅうたんに乗っているみたいです。乗ったこと無いですが(笑)。
 
ともかく、居着きそうになった時に、目安となる身体の使い方があるのは心強いです。そのうち、その使い方も気にならなくなります。自然と、バランスが取れていくんでしょうね。気がつけば、常に、身体は軽く、浮いているのが当たり前となり、今度は逆に、浮いていないときに、その気持ち悪さが気になるようになります。

【身体感覚の足跡】バランスは三角形で

「バランス」という事を考えてみた時、二つのもので考えてしまいがちです。相手が抑えてくる、それに対して対応する自分がいます。相手と自分との間で頑張ってしまうと、力が強いとか、スピードが速いとか相手よりも勝るものが必要になってきます。
 
相手よりも勝っているときはバランスを考えなくても、そのまま向かっていけばいいでしょう。でも、そういう時ばかりではないはず。そこで、「バランス」です。バランスを維持するのには力はいりません。今ある力を相手を崩すために使うのではなく、相手とのバランスをとるために使えばいいのです。
 
 
 
・・・と言った所で、なかなかこれは伝わりません。なぜかと言うと、もう、みんな「知っている」からです。そこで、バランスを体感しましょう。いい方法があります。
 
電車に乗ったときに、指一本でもカベに触れていたら楽ですよね。この時、「立つ」事を持続するのに力はいりません。ただ、バランスを維持する事が大切なわけです。立っているのはこの両足です。バランスをとっているのはカベに触れている指です。
 
こんな実験をしました。両足で立ち、相手に横から押してもらいました。普通に押してもらうと、どうしても、片足に体重が乗ってしまい力勝負となってしまいます。その時、自分の中の限界が作られちゃうのかな。でも実はこの限界だと思っているのは、勘違いなんです。その勘違いをずっと引きずっているんですよね。そこで、勘違いを実感する実験です。傘でも杖でも、適当な棒を持って立ちます。そして同じように、横からしっかり押してもらいます。この時、杖の先が床にトンとついているだけで、全然耐えられる力が違います。バランスが自然とこの杖でとられるようなんです。
 
二つのままでは気がつかなかったのが三つあればなにも気にせず、バランスが取れてしまうだなんて・・・バランスって大切、って事を身体で実感した瞬間でした。

模索中に日記に残したものがいくつかあります。
参考にどうぞ。
カに歩き
浮くための3点立ち
寝ている姿勢で3点バランス
3つでバランスをとる

天地人